リスクゼロという考え

    放射能ノイローゼ 最も過激な「危険だ」の声だけ信じる懸念
    http://www.news-postseven.com/archives/20111027_66951.html


    ネットで放射線関係のニュースに対するコメントなどを見渡すと「少量なら危険性はない」という意見や、「一分子でも毒を取り込んだら危ない」という意見が対立していることがよくあります。


    まぁ農薬の問題とかでも散々言われていますけど、リスクゼロってのはありえないんですよね。子供の健康を真剣に考えるのであれば、被災地からの瓦礫の焼却を問題にしたり、東北の食材に反応したりするのと同様に、他のリスクも考察する必要があると思います。


    例えば、野菜に使われている農薬に関して、発がん性物質が使われている、という情報があったとき、冷静にリスクを考える事はできているのでしょうか?


    今現在話題沸騰中の放射能は、ガンを引き起こすことが知られており、どんな少ない量でもDNAに影響を及ぼすと考えられるため、閾値なしの考え方で防護的な政策がとられています。こういう物質の事を「変異原性がある」といいます。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%89%E7%95%B0%E5%8E%9F


    自然界には、変異原性の発がん性物質などいくらでもあって、アフラトキシンとペンズピレンが有名です。http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc02.htm


    これらや天然に存在する放射性物質など「変異原性」があると考えられる物質は、閾値が無く「どれだけ少なくてもリスクが無くならない」と【扱われています】。http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/dr_okamoto/health%20management/Basic%20Knowledge/Basic3.htm


    なぜ【】付かというと、ヒトに対する実証がされていないことが多く、放射線のLNT仮説と似たようなもので、インプットが少なくなればなるほど、実験材料が大量に必要となり、証明が難しくなるので、「閾値なし」の考えを低量域で厳密に証明する事は実験的に困難です。


    ですが、可能性として危険が想定できるので、微量であれども「できるだけ少なくしましょう」という防護的な考えの下、さまざまな規制値が設けられています。放射性物質ではない変異原性の毒物にも基準値はあって、「これ以上は流通させない」などの処置がとられています。http://www.fsc.go.jp/emerg/af.pdf


    どんなに少なくとも影響がある、とするのですから、放射能などの変異原性のある物質は、リスクがゼロにはなりえません。ただ、量が少なくなれば影響は少なくなり、他の生活上のリスクの方が大きくなります。


    例えば、アルコールだって発がん性がありますし、コーヒーだって膀胱がんを引き起こすことが知られています。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/IARC%E7%99%BA%E3%81%8C%E3%82%93%E6%80%A7%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E4%B8%80%E8%A6%A7
    http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/339.html


    農薬や食品添加物だって「ガンや他の病気になるかもしれない」といわれていますよね。当たり前ですが、僕らの生活で「リスク」と呼ばれるものは、なにも放射能だけじゃありません。上のIARCのリストを見てもらえば分かりますが、日焼けサロンにいけば紫外線を大量に浴びて皮膚がんの要因になりますし、夜勤や美容室でのパーマも危険性があるとされていますが、ほとんど認識されてないと思います。


    人ががんになるのはどのような要因によるのか、また、そのリスクを一般の方がどのように見ているのか、について、興味深い研究があります。
    http://www.jcpa.or.jp/qa/safety/qa05d.html
    図-1.の 米国人のがん死亡要因(1996、ハーバード大学)のグラフを見てください。
    放射線や食品添加物・農薬による発ガンの寄与率はかなり少ないです。


    特に注目してもらいたいのが、図-2の上段の、主婦にがんの原因として考えられるものについてアンケートを取った結果です。下段はがんの疫学者の評価です。


    主婦の方や一般の方にとって、農薬や食品添加物といったものは、実際のリスクよりも高く見積もられる傾向があります。


    特に、食品や体内に取り込む物質に対して、そういった認識のゆがみが生じることは有名で、フードファディズムと呼ばれますhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%BA%E3%83%A0


    喫煙を除けば、普段の食生活が、ガンの一番のリスクと考えられています。http://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause/dietarylife.htmlでも、普段そんなに意識してませんよね。熱いものを食べたらガンになる、というのは知識としては知っていますが、実際「熱いものはガンになるので食べません」という人は会ったことがありません。


    微量ながら、パセリやオレンジジュース、キャベツには、それぞれ天然成分として、発がん性物質が含まれていますが、普段意識している人はほとんどいないのではないでしょうか。http://www7.plala.or.jp/organicrose/ames.htm これらが直接的に健康に影響を及ぼす事はありませんが、発がん性物質自体は入っているのです。


    僕らは事故以前から発がん性物質に囲まれて生活してきたのですが、御存知でしょうか?
    http://sekken-life.com/life/Cancer2.htm


    今、「ガンの原因となるのは、どんな物質によると考えますか?」と街角アンケートをとったら間違いなく「放射性物質」がトップに来るでしょう。
    ですが、本当にそうでしょうか?よく考えてみてください。


    誤解の無いように、ですが、こんなことを知らないのは普通ですし、ごくごく一般的で、昔から繰り返されてきたことなのです。決して知らないことが悪いことなのではありません。「危険情報の認識はゆがむのがあたりまえ」という点を強調したいのです。


    例えば、僕らは自然界から毎年1.4mSvくらいを被曝しています。
    http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010504/01.gif
    医療で使われるCTスキャンやレントゲンなどで、年間2~2.5mSvの医療被曝をしています。http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/1_2.html
    人生80年として、200~300mSvを生涯で浴びているのです。


    こんなこと、福島の事故以前に知っていた人がどれほどいるのでしょうか。ほとんどいなかったと思います。こう書いている僕も、放射線の基礎的な知識以外の殆どは、今年初めて知ったことが多いのです。


    大切なことは、一つの偏った視点ではなく、冷静かつ総合的に情報を把握することだと思います。これは専門知識が無くてもできることです。http://togetter.com/li/176434http://ameblo.jp/seisan-himajin/entry-11020449172.htmlなどが参考になります。


    放射線による健康被害への話を戻して、普通の生涯で浴びる放射線をベースとし、福島の事故由来の放射性物質が加わった場合、いったいどれくらいの影響があるのか?ということを考えてみます。


    以前、今回の原発事故が原因で、関東地方での生涯被曝量がどれくらい増えたのか、という計算をしたことがありますが、生涯で50mSvも被曝できません。これは被災地でもほぼ同じ計算になります(~150mSv)。


    上のリンクで示されている、発ガンの要因となる「放射線・紫外線(ガンの要因の中の2.5%)」のうちの「放射線」によるものが、1.1~1.25倍になると「計算」できますが、実際上がるかどうかは微妙です。上の僕の見積もりはかなり防護的に見積もっているので、予想よりも下だと考えられます。


    今回の事故に起因した放射線騒動は、個人的には過剰反応だと思います。
    それに費やすエネルギーがあるなら、他のことに気を使った方がよっぽど子供の健康のためになるのでは。


    記事にある集団心理などに関しては、
    社会心理学者のきょんきちさんの記事が参考になると思います
    http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1726420173&owner_id=446862
    今回の震災・原子力事故に起因する不安や、それらにどう対処すればよいのか、専門家の視点で解説されています。


    【おまけ】

    やる夫で学ぶ無農薬野菜の危険性
    http://ansokuwww.blog50.fc2.com/blog-entry-685.html


    僕の記事のまとめページ


    追記①
    この「変異原性の毒物には危険性の閾値が無い」という考え自体は、古くから想定されているものですが、現在は通説とは言えなくなっています。http://www.foocom.net/column/editor/3837/http://risk.kan.ynu.ac.jp/masunaga/bibouroku26-30.htmの26-(4)など

    これは放射性物質でも同様で、低線量被曝の影響を考える際は「LNT仮説(閾値なし)」「閾値あり仮説」「ホルミシス仮説」と研究者の中でも意見が割れているのは有名な話。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A2%AB%E6%9B%9D#.E6.94.BE.E5.B0.84.E7.B7.9A.E8.A2.AB.E6.9B.9D.E3.81.AB.E9.96.A2.E3.81.99.E3.82.8B.E8.AD.B0.E8.AB.96.E3.81.A8.E4.BB.AE.E8.AA.AC


    追記②
    最初に書いた「少量なら危険性はない」と「一分子でも毒を取り込んだら危ない」という意見の対立は、毒性学と呼ばれる学問のテーマだったりします。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%92%E6%80%A7%E5%AD%A6
    前者は「一般毒性」後者は「特殊毒性(変異原性)」の考え方。
    アルコールなどは一般毒性で、放射能などは特殊毒性で考える必要があります。
    追記①で書いたように、特殊毒性にも議論の余地があることを留意する必要があります。こういった議論でよく食い違っている点かと。

    追記③
    カビ毒であるアフラトキシンは、天然の最強の発がん物質とも呼ばれ、強い発がん性を持っていて、穀物や豆類などに存在することが疑われています。数年前に事故米騒動の際に話題になったので覚えている方もいると思います。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3#.E7.94.9F.E7.94.A3.E8.8F.8C

    事故米に対する2chの反応↓
    http://logsoku.com/thread/science6.2ch.net/life/1221017085/
    「あふらときしん」を「ぷるとにうむ」に置き換えただけでデジャビュが。。。。

    実質的な健康被害に関しては、http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080910あたりで詳しく考察がされていると思います。
    http://informatics.cocolog-nifty.com/news/2008/09/post-da6d.html
    も参考になるかもしれませんが、動物実験をベースに考えているので、ヒトに対しては過剰な反応かな、と思います。http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E5%A4%89%E7%95%B0%E5%8E%9F%E6%80%A7%E8%A9%A6%E9%A8%93http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/GHS/text/part3.5.htmhttp://www.rdc.nipponham.co.jp/mycojudge/images/msds_mycojudge.pdfあたりのMSDSなども参考になると思います
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    プロフィール

    NakatakeYuhki

    Author:NakatakeYuhki
    東京に在住している研究者です。
    専門:分子生物学、幹細胞生物学、発生生物学、DNA修復、転写制御機構。生物全般に興味があります。

    反似非科学。懐疑論的な考え方をします。

    薬学畑。出身は関西。

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