一見一番素直な解釈という罠

    作業員男性が急性白血病で死亡
    もはや沈静化したと思いますが、あえて日記を書いてみます。

    事故と直接の因果関係があるとは考えられませんが、その理由は
    レーゼさんの日記
    http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1769235819&owner_id=4114283

    NATORMさんの日記
    http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20110830
    に詳しいです。

    特にこれらの記事に書かれている点について追加することはありません。
    至極妥当な解釈で、僕も同じ考えです。


    今回これに関して日記を書こうと思ったのは、一般の方がこのニュースを見たときのリアクションを想像したためです。


    おそらく、「作業員が急性白血病」→「放射線で白血病が増えたと聞いた」→「原発事故による影響であることは明らかだ」
    という考えであったのだろうと想像します。

    一見ものすごく自然で、一番簡潔な考えのように思うでしょうし、当然だと思います。


    ですが、僕にとっては、とても不自然な考えだと感じます。
    この感覚の違いが、いわゆる専門家と一般の方の違いなのだと考えます。


    誤解のないように、ですが、決して一般の人の理解が足りないから悪いのだ、とか、専門知識を持っているのが偉いのだ、というつもりは毛頭ありません。

    一般の方には上の日記にあるような情報は、日常的には必要ありませんし、僕らは日常の業務に必要だからそのような知識を持っているだけです。

    情報は要るときに要る分だけ得ればよいのです。
    そのために専門家がいます。

    例えば、上のNATORMさんの日記の説明にある文章
    『腫瘍細胞が増殖して体積が2倍になる時間を「ダブリングタイム」と言います。白血病細胞の場合は数日から10日ぐらいとされています』http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC442035/?tool=pubmed

    という文章があるのですが、これに対して、

    「今まで知られていた細胞はそれくらいかもしれないけど、この人の細胞は特に早く分裂したかもしれないじゃないか! ダブリングタイムが2日なら80日で発症します、ってあるから、1日なら40日だし、12時間なら20日だし、6時間なら10日じゃないか!そんなケースは『無いとは言えない』だろ?簡単に断定するな」という反論を見たことがあります。

    この方にとっては至極自然な疑問ですし、論理的な考えです。

    ですが、僕は「どんな早く分裂するがん細胞でも培養条件で12時間はかかるし、生体内だと免疫系の影響も受けるので、通常は培養条件よりゆっくり増える。6時間で細胞分裂てのは、哺乳類、特にヒト細胞では染色体の構造の複雑さ・DNAの長さからしても無理」ということを知っています。

    さらに、リンク先にもあるのですが、「広島長崎の被爆では、0.5mSvどころではなく、その1000倍以上の線量が大量の人に浴びせられたにもかかわらず、最短で発症数が増えたのは2年後から」という情報も知っています。

    さらにさらに、「がん細胞が健常な細胞と置き換わって、異常な血球を作り続けるには、時間がかかる」という原理も知っています。

    ですので、この考えは「非常に不自然」なのです。


    一見自然に見える仮定「白血病→福島の事故が原因」という仮定は、実は、かなり無茶な仮定を置かなくては説明ができません。


    今回のケースでは、それよりも妥当な考え「事故以前に白血病の原因が作られていて、作業期間中に発症した」という考えができるので、「どっちが妥当か?」という判断をする際に「事故が原因とは考えにくい」と判断を下します。

    知識の量によって、論理的な判断は変わりますし、当然と感じる感覚も変わります。
    今までの事故状況をどう捉えてきたか、でも判断の方向性が決まるでしょう。

    例えば、
    「検査で子ども150人が過剰被曝 甲府の病院」
    http://www.asahi.com/national/update/0901/TKY201108310688.html?__from=mixi
    のような記事を読んだ際、今なら放射線について関心が高まってますから、この事故が「ひどい事故だ」ということは理解されると思います。
    ですが、これが去年起こっていたら、同じような関心が払われるでしょうか?
    僕にはそうは思えません。
    この医療事故は下手すれば(線量から見ると「明らかに」なのですが)今回の原子力発電事故以上の放射線事故かもしれません。
    http://mainichi.jp/area/yamanashi/news/20110902ddlk19040110000c.html?__from=mixi
    管理も甘すぎる。

    あと思うことは、いつもながらマスコミ報道のレベルの低さです。
    こんな報道したら訳が分からないのは当然です。
    もっと丁寧に解説すべき
    もし、今後同じ症状で亡くなる方が出るのであれば、やはり不自然ですから、今後とも追跡調査をすべきです。

    ともあれ、無くなった作業員の方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

    記事抜粋↓
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     東京電力は30日、福島第1原発事故の収束作業に従事した40代の男性が、急性白血病で死亡したと発表した。同原発での被ばく放射線量は累計で0.5ミリシーベルトで、東電は「収束作業との因果関係はない」としている。

     東電によると、男性は8月上旬から7日間、同原発で休憩所の出入りや放射線量を管理する業務に従事。勤務を終えた後に体調を崩して入院し、東電は16日に死亡の報告を受けた。

     勤務前の健康診断で異常はなかったという。被ばく量のうち、内部被ばくはゼロだった。 
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    NakatakeYuhki

    Author:NakatakeYuhki
    東京に在住している研究者です。
    専門:分子生物学、幹細胞生物学、発生生物学、DNA修復、転写制御機構。生物全般に興味があります。

    反似非科学。懐疑論的な考え方をします。

    薬学畑。出身は関西。

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